佐藤慶一さんという編集者がいるんですが、とても優秀な方で、いつも参考になるブログを書いていらっしゃるので読みまくっています。海外メディアの動向に詳しくて、これからバイラルメディアが流行るのか〜、ってのは去年末くらいに佐藤さんのブログを読んで知りました。
メディアの輪郭
佐藤さんのブログ
そんな佐藤さんが講演されるらしいという噂を聞きつけて、聴講しに行って参りました。テーマは「BuzzFeed、Upworthyのこれまでと現在」。海外の2大バイラルメディアについて総括するものです。
実は僕もバイラルメディアらしきものを作ってみたりしていたので、すごく興味あります。期待どおり、しっかりとしたプレゼンで、大変勉強になりました。内容は以下の通り。全編、佐藤さんの語りです。
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バイラルメディアとは、「Viral(:ウィルス性の)」という名の通り口コミで爆発的に広がっていくメディアのこと。特にTwitterやFacebookで拡散するのが「バイラルメディア」だったり、「キュレーションメディア」と呼ばれる。
Facebookのいいね!数ランキングを見た感じだと、上位の半分くらいがバイラルメディアと呼ばれるメディアが占めている。最近出てきたところだと、15番目に出てきたPlazBuzzというサイト。ここは月間89本しかコンテンツを出していないにもかかわらず、ランキングに入っている。最近キテる。
The Biggest Facebook Publishers of June 2014 | The Whip
次はTwitterの情報。Facebookに比べるとTwitterはバイラルメディアが3つしかランクインしていなくて少ない。やっぱり大手が多い。ハフィントンだったりBuzzFeedがランクに入っている。
■TwitterカードよりもFacebookのOGP
The Biggest Facebook Publishers of June 2014 | The Whip
■TwitterカードよりもFacebookのOGP
この2つの情報をまとめてみるとFacebookの方はトップ15のうち7つがバイラル系。記事数は伝統メディアに比べて少ないんですけど、ソーシャルメディア上、Facebook上での存在感はすごく大きい。Yahoo!、New York Times、ワシントン・ポストのような名のあるメディアに存在感で勝っているのが新しい流れ。
一方でTwitterには3つしか入ってなくて、その要因になっているのは、Twitterカード。ツイートを1回タップしないとTwitterカードは機能しない。Facebookはストリームにそのまま記事が表示される関係で、このようなタイプのメディアには合っているのかなと思う。そしてトラフィックをしっかり集める要因になっていると考えている。
これはハフィントンポスト日本版の投稿。やっぱりアイキャッチがすごい目を引くものを多く発信されているなという印象です。
■BuzzFeedのルーツはMITの研究
■BuzzFeedのコンテンツはこう変わってきた
■Upworthyの功績は「大きなソーシャルボタン」
次に「Upworthy」というバイラルメディアについて。Upworthyはこういうトップページ。動画のキュレーションサイトとして成長しているメディアです。
BuzzFeedに比べると2012年創業なのですごく若い。まだ2年くらいのメディアなんですけど、最高で月間1億ユニークユーザーくらいとっていました。でも現在は3500万ユニークユーザーで落ち込んでいます。
■Upworthyは「フィルターバブル」への抵抗
■キュレーションは飽和するのか?
■まとめ:いま、3つの変化が同時に起きている
最後なんですが、4点だけお伝えしたい。まずルーツですが、BuzzFeedやUpworthyみは、アカデミックな背景だったり、フィルターバブルという現象に立ち向かっているという姿勢がある。トラフィックをツールにして何かを実現したいと思っているメディアはものすごく強い。特にBuzzFeedなんかは2006年から2011年までずっとまとめ記事みたいなものを作り続けていました。たとえば今年メディアを立ち上げて2020年までずっとまとめ記事を作り続けられるか、きっと精神的に疲れると思う。
HuffPost Japan
■BuzzFeedのルーツはMITの研究
前置きはこれくらいにしてBuzzFeedについてお伝えしたいと思います。BuzzFeedは、見たことある方もいると思いますが、こんなトップページになっています。
BuzzFeedとは2006年にできたメディアで、ハフィントン・ポストを共同創業したJonah Peretti(ジョナ・ペレッティ)氏が参画し、創業。当初からリスト記事を書いて成長してきた。そこにネイティブ広告を入れて年間1.3億ドルを稼ぐ。今年はこれくらいいくだろうと言われている。ネイティブ広告のみで稼いでいます。
この額を見て驚くと思いますが、これだけお金があるので大手新聞の記者を雇って自前の報道をするまでに至っているメディアです。BuzzFeedはハフィントン・ポストみたいなやり方でけっこうなスピードで世界中に広がっていて、英語圏のほかにポルトガル語圏だったり、スペイン、フランスにも広がっています。もちろん英語圏も抑えつつ、さまざまな国に展開している最中となっています。
BuzzFeedの概要はこの通りです。ルーツはどこにあるかというと、ハフィントン・ポストのルーツでもあるんですけど、Jonah Perettiは「感染するメディア」についてMITで研究していたことに遡ります。
NIKEに好きな言葉を入れてスニーカーを作れるとなったときに、SWEATSHOPという言葉を入れて、NIKE側に却下されたというエピソードがあって、それをウェブ上で公開したところバイラルしたということが、Jonah Perettiの研究対象だったわけです。
実際に広まって新聞社などが取り上げる事例になりました。日本でもチェーンメールとか昔ありましたが、そういった形でバイラルしていきました。
実際に広まって新聞社などが取り上げる事例になりました。日本でもチェーンメールとか昔ありましたが、そういった形でバイラルしていきました。
もう1つが、黒人白人の差別に対していかに無関心層が関心を持つかという研究。これに取り組むべく、ウソのカップルがわざと仲良くしているような写真をどんどん上げて、ウェブ上で差別に対する問題意識、関心を持ってもらう取り組みをやった。
無関心な人たちに関心を持ってもらったり、議論が活発化するような刺激的な取り組みを研究対象としていたちょっと珍しい人がハフィントン・ポストとBuzzFeedを立ち上げているのは重要な要素だと思っています。
無関心な人たちに関心を持ってもらったり、議論が活発化するような刺激的な取り組みを研究対象としていたちょっと珍しい人がハフィントン・ポストとBuzzFeedを立ち上げているのは重要な要素だと思っています。
これはあくまで参考データですが、直近は月間1.7億ユーザーで、記事へのいいね、シェア、コメントもこれくらいです。ここは触れる程度で。
■BuzzFeedのコンテンツはこう変わってきた
次にどのようなコンテンツをBuzzFeedは作ってきたのか。立ち上げたのは2006年とけっこう前ですが、ここまでどんなコンテンツに注力してきたのか。前半期の2006年〜2011年まで主にやってきたのはリスト記事だったり、画像。いまもBuzzFeedのメインコンテンツですが、そのようなものを発信することでトラフィックを集めてきました。
BuzzFeed Presentation
BuzzFeed Presentation
そして2012年からはクイズだったり、音声だったり、これらは前半期のコンテンツとも重なるところはありますが、そういうちょっとエンタメっぽいコンテンツを発信してきました。そのほかに2012年以降は長文、速報、政治ニュース、調査報道をやってきました。
長文記事というのはちょっとした文芸誌みたいな役割も果たしている。速報は通信社っぽい役割。政治ニュースや調査報道は新聞社みたいな役割を担いつつ、これまでにあったいろいろな種類の媒体をひとまとめにしようとする動きを見せている。今年はテレビともパートナーシップを組んで、今度は本当にテレビの世界にも入ってくると思います。
長文記事というのはちょっとした文芸誌みたいな役割も果たしている。速報は通信社っぽい役割。政治ニュースや調査報道は新聞社みたいな役割を担いつつ、これまでにあったいろいろな種類の媒体をひとまとめにしようとする動きを見せている。今年はテレビともパートナーシップを組んで、今度は本当にテレビの世界にも入ってくると思います。
■ハフィントン・ポストが成功した3つの理由
次にハフィントン・ポストも軽く紹介。このサイトが成功した3つの理由というのがあります。1つ目はさっきのチェーンメールみたいな話にもつながりますが、「シックスディグリー」理論という、友人から6人を経たら、世界の誰とでもつながるという理論を研究している学者を取り込んだこと。2つ目はBuzzFeedを立ち上げたJonah Perettiらを巻き込んでいたこと。
そして3つ目はSEO。これまで伝統メディアはなかなかSEOをやっていなくて軽視していたんですけど、ハフィントン・ポストはそこに注力することで、ネット発のメディアとして成功できた。おおよそこの3つの要因がよく語られています。
そして3つ目はSEO。これまで伝統メディアはなかなかSEOをやっていなくて軽視していたんですけど、ハフィントン・ポストはそこに注力することで、ネット発のメディアとして成功できた。おおよそこの3つの要因がよく語られています。
そのほか細切れな情報なんですが、ハフィントン・ポストの構想段階のときに、どういった人をターゲットにするか、というのがある。たとえば「仕事中にひまで仕方がない人たち」が最初のターゲットだった。Jonah Perettiというバイラルの専門家がいたので、トラフィックをうまく集められるという確信はあったんですけど、でもそれは一時的なものなので、「メディアとしての資産になるかというと、そうではないだろう」というところまで構想段階で考えられていました。
そういった弱いトラフィックを強いトラフィックに、価値のあるトラフィックにするにあたって、力を発揮したのがArianna Huffington(アリアナ・ハフィントン)という創設者で、政治家や著名ブロガーを巻き込んで弱いつながりをもう少し強くして、メディアとして大きく打ち出した。やっぱり弱いトラフィックというのはいまのバイラルメディアとかキュレーションメディアに対しても言えることだと思う。強いつながりが欠けているのが現状。
■Upworthyの功績は「大きなソーシャルボタン」
次に「Upworthy」というバイラルメディアについて。Upworthyはこういうトップページ。動画のキュレーションサイトとして成長しているメディアです。
Upworthy: Things that matter. Pass 'em on.
BuzzFeedに比べると2012年創業なのですごく若い。まだ2年くらいのメディアなんですけど、最高で月間1億ユニークユーザーくらいとっていました。でも現在は3500万ユニークユーザーで落ち込んでいます。
このメディアの大きな意義については、いわゆる大きめのソーシャルボタンのフォーマットを広めたことだと思います。有名なエピソードとしては1本の記事に対して25個のタイトルを考えているというものです。それだけソーシャルに最適化した戦略を撮っている。タイトルの重要性をものすごく追求したメディアになっています。
Facebookに最適化したので、BuzzFeedに比べると倍くらいの「いいね!」がついています。これも1枚のグラフでとてもわかりやすいんですけど、史上最速で成長したと言われています。ハフィントン・ポスト、BuzzFeed、ビジネスインサイダーなど海外の新興系の勢いあるメディアよりもさらにスピード感のある成長をしたということで、話題を呼びました。
The Sweet Science Of Virality
■Upworthyは「フィルターバブル」への抵抗
こちらもルーツを紹介。もともとのルーツは社会問題、政治関連のメディアをやっていた人と、オニオンという社会風刺的なメディアをやっていた2人がタッグを組んで、メディアを立ち上げたんですけど、その背景にあったのは、別にバイラルさせたりとか、良質なコンテンツを伝えたいとかではなくて、「フィルターバブル」と呼ばれるような現象について何かしら対抗したいという思いからでした。
これはやっぱりウェブだったり、特にソーシャルメディア時代なんですけど、自分の趣味趣向に沿った情報しか獲得しない傾向にある。視野が狭くなってしまう。そこに何か不都合が起きるだろうということで、このフィルターをどうにかできないかと、そのソリューションとして生まれたメディアです。
良質なコンテンツをそれを求めている人に広く届ける、というのはキュレーションアプリとかでもよく言われているんですけど、そこは前提として、重要なコンテンツを「求めていない人」にも届けようとしている。たとえば政治に関するコンテンツとか政策系の「堅いコンテンツだけど、これは知っておいた方がいいよね」というのをどのように伝えるかにフォーカスしています。
ここらへんは紙一重ですが、バイラル系で過激なコンテンツを出して批判されたりする一方で、そこは需要との兼ね合いになるのかなと思います。あとはUpworthyが取り組んだのは動画のキュレーションというすごくシンプルなものだった。tldr(too long, didn't read)という課題についても対応すべくシンプルなものにした。
あとUpworthyの注目の動きとして2つ紹介したいと思います。1つは外部組織との連携。さきほどのハフポのところで、弱いつながりを強くするにはどうしたらいいかという問いに政治家、経営者とか社会的強者や有名人を入れて、弱いトラフィックを強いトラフィックに変えていった。Upworthyもよく似ていて、ゲイツ財団、プロパブリカみたいな有名な財団やNGO、調査報道メディアと連携することで、集まったトラフィックをどんな価値あるものにできるか取り組んでいます。
あともう1つ面白いのは、バイラルメディアはトラフィックが集まるメディアなんですけど、決してPVには固執しないという姿勢があって、どれだけ有意義なトラフィックなのかということで、いまはコンテンツを見ている時間はどれくらいなのかを計測するツールを開発したりとか、そういった方向性で新しいメディアの形を生み出そうとしているのかなと思います。
■キュレーションは飽和するのか?
次にキュレーションについて最後、少し触れたいと思います。定義は人それぞれありますが、LINEの森川社長が言っていたことが面白いです。
基本的にまず私たちは、玉石混合の世界を作ることを目指しています。その上で、ソーシャルの世界に「ノイズ」は果たして存在するのか、という意識ももっています。ある人にとってノイズでもある人にとっては「玉(ぎょく)」かもしれない。ASCII.jp:キュレーションって何ですか? NAVER森川社長に聞く (1/5)
これもバイラルメディアはゴミとか言われていますけど、そういうところにもつながる言葉なのかなと思います。実際キュレーションってどれくらいの規模なのかというと、今年は178億円規模と先日推計が出ていた。ニュースアプリ、キュレーションECとかも入っているので個人的には想像よりも多かったが、やっぱり他の業界、たとえばクラウドソーシング業界などと比べると全然少ない。それほど規模としては大きくない。
キュレーションサービス市場に関する調査結果 2014
キュレーションの今後について。もともとは情報の爆発的な増加を背景に、人的、機械的なコンテンツキュレーションが生まれた。今後は飽和するのか? いまソーシャルメディアを使っている人、ネットをチェックしている人は、キュレーションメディアやバイラルメディアに対して「コンテンツ、かぶりすぎ」っていう印象を受けるかもしれないですけど、そういうところから少しずつキュレーションの飽和が始まっていくのかなと思っていて、今後はそれにどう向き合っていくのかっていう姿勢が問われるのかなと思います。
■まとめ:いま、3つの変化が同時に起きている
最後なんですが、4点だけお伝えしたい。まずルーツですが、BuzzFeedやUpworthyみは、アカデミックな背景だったり、フィルターバブルという現象に立ち向かっているという姿勢がある。トラフィックをツールにして何かを実現したいと思っているメディアはものすごく強い。特にBuzzFeedなんかは2006年から2011年までずっとまとめ記事みたいなものを作り続けていました。たとえば今年メディアを立ち上げて2020年までずっとまとめ記事を作り続けられるか、きっと精神的に疲れると思う。
あとは2点目としてソーシャル×スマホ。日本の新聞社もそうですが、なかなかここに対応できていない。そういう意味でネット発のメディアというものの強みを活かすメディアが日本に出てくると新聞社にはない特徴が出てくると思う。
3点目はキュレーションの飽和にどう向き合うか。独自性、コミュニティ、ロイヤリティ、エンゲージメントだったり。そういう部分を大事にすることで、キュレーションの意義とかをもっと追求できるのかなと思います。メディアを始める時は当たり前ですけど、独自性や希少性、再現性の低さは重要視されます。たとえば炎上は再現性の低さの象徴でもあります。そういう部分にも価値はあります。
4点目はメディア全体に対して、コンテンツ制作の部分と流通の部分、マネタイズの部分、この3つで同時に変化が起きる時代はなかなかないのかなと思っていて、この3つのポイントでいろいろな確信が起きることでもっとメディア業界はおもしろくなっていくのかなと思っています。
以上です。ありがとうございました。
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と、佐藤慶一さんはお話していました。とても勉強になりました。プレゼン資料は以下のSlideShareでも閲覧できますので、ぜひ。バイラルメディアやキュレーションメディアについて、これ以上に的確で端的な現状認識はないんじゃないかと思います。
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と、佐藤慶一さんはお話していました。とても勉強になりました。プレゼン資料は以下のSlideShareでも閲覧できますので、ぜひ。バイラルメディアやキュレーションメディアについて、これ以上に的確で端的な現状認識はないんじゃないかと思います。