ゴールデンウィーク中、LGBTを支持するイベント「東京レインボープライド #TRP2017 」が開催されている。この「プライド」というムーブメントは世界的なもので、協賛企業のPRも見どころの1つだ。

サンフランシスコのプライド期間中、バーガーキングは特別メニュー「プラウドワッパー」を発売した。LGBTの象徴であるカラフルな虹色の包装紙に包まれているのが特徴だが、それ以外はどんな具材でどんな味なのか一切が不明。店員さんも教えてくれない。

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出典:USA TODAY


しかし、試しに買ってみたお客さんは包を開けてハッとした。中身は普通のワッパーと同じだったのだが、包装紙の裏にはこんなメッセージがあった。


「We are all the same inside」(みんな中身は同じ)。



「LGBTの人たちも、そうでない人も同じだよ」。バーガーキングのメッセージがしみじみと伝わるPRキャンペーンだった。

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出典:Pink news


「なるほどぉー」と唸ってしまうようなPR事例だが、これはブルーカレント・ジャパンというPR会社の社長、本田哲也さんからいただいた新刊に載っていたのを、昔から知っていたかのように紹介しただけだ。

その本は「6 RULES OF STRATEGIC PR - 世の中を動かす新しい6つの法則 -」という非常にかっこいい本で、ついつい人にドヤってしまいたくなるような事例がたくさん書いてある。

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本田さんといえば2009年に出版された「戦略PR」が大きな話題になり、そもそもPRってなんだっけ? 広告とか広報と何が違うのという当たり前の知識から、PRをちゃんと戦略的に用いるとこんなにすごいことになるという理解を広く知らしめたお方。

戦略PR 空気をつくる。世論で売る。 (アスキー新書 94)
本田 哲也
アスキー・メディアワークス
2009-01-13



当時、記者をしていた私は当然この本を拝読し、戦略PRすげえな、たぶんころっとヤラれるなと戦慄したものです。我々記者は日々、ニュースを探しています。読者が興味を持ちそうなネタはないか、人に聞いたり、ネットをふらふらとしたり…。そこに現れるのがPRのプロフェッショナルです。

彼らはクライアントが打ち出したいメッセージを、記事ネタという形に上手に加工して持ってきてくれます。それはキャッチーなアンケート調査結果だったり、いかにもバイラルしそうな動画だったり、(いわゆる)静かなブームだったり、いろいろな形を取っています。

その結果、パブリシティ(露出)を獲得し、人々の考え方を少し変え、最後には行動様式をも変えてしまうのが戦略PR。

そしてこの本はそのすべてが書いてある恐ろしい書物。「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」という副題にあるように、また何か法則を発見されたようです。もうやめて!!!

戦略PR 社会を動かす新しい6つのルール
本田哲也
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-04-12



で、6つの法則というのは何かっていうとこれらのこと。Amazonの商品ページにもそのまま書いてある親切さ。いいの?
  1. おおやけ(社会性の担保)
  2. ばったり(偶然性の演出)
  3. おすみつき(信頼性の確保
  4. そもそも(普遍性の視座
  5. しみじみ(当事者性の醸成
  6. かけてとく(機知性の発揮

世の中で成功したPR事例にはほぼこの6つの要素が最低1つは含まれているそうだ。ちなみに冒頭で紹介したバーガーキングは6に当てはまる。たしかにものすごい機知。

虹色の包を開けた人は「あーたしかに。1本取られた」とか、「ふふふ、そうだよね」とかなんとなく笑顔になってしまうはず。その瞬間に通常のコミュニケーションではあり得ないくらいほど理解が促進し、メッセージが浸透する。5と6の法則はそのへんが強い。

……みたいな感じで、世界中のあらゆるPR事例をもとにどうやって6つの法則を活用すればいいのかを解説してくれて、すごい勉強になる。

なにより以下のような怒濤の海外事例紹介はこの筆者でないと不可能だ。

P&Gがインドで展開した「家事をしないお父さん」、ベネッセの「うちパパ」プロジェクト、ボルボの「Life Paint」(自転車に塗る発光スプレー)、ニュージランドのNGOによる「運転する犬」プロジェクト、ノルウェーのNGOによる児童婚撲滅キャンペーン、サムソンの自閉症の子ども向けアプリ、P&Gの「Always #Like A Girl」キャンペーン、フィリップス「Breathless Choir」プロジェクト。

どれも内容を知ると唸ってしまうようなものばかりだが、これでもまだ一部。PRを仕掛ける側の人も、仕掛けられて結果的にパブリシティに貢献してしまう僕のような人も、PRって何?っていう学生の人にもぜひ読んでほしい本。


ちなみに僕が最近出会った最も破壊力のあるPR案件はこれだ。

稀代のトレンドセッターに聞く「渋谷の新しいホテル」の価値  藤原ヒロシ氏が見る"ホテルの未来"

もはやホテルとは呼べない存在 TRUNK(HOTEL)での取り組みを見て、藤原氏の口から出てきたのは「ホテルという呼び方にはあてはまらないのでは?」という言葉。奇しくも、この考え方はスタッフの間でも議論を重ねてきたもの。藤原氏が「オーベルジュ」を引き合いに出したように、これまでのホテルの概念には当てはまらない、新しい形の複合施設的存在を提案しているのがTRUNK(HOTEL)の真の姿だ。 ...


これの何がすごいって、今度渋谷にできる「TRUNK(HOTEL)」っていうホテルのPRとして、ご意見番・藤原ヒロシ氏を担ぎ出し、いい感じにエンドースメント(6つの法則その1、おすみつき)を得ようとあの手この手で言葉を引き出そうとするものの、藤原ヒロシ氏の口から出るのはどれもホテルとは真逆の冷静な意見というコントのようなリアリティある展開(
6つの法則その2、ばったり)。

これを見た人は、「なんでこうなった」「何かの事故では…?」「さすが藤原ヒロシ」「お腹痛いwwww」などの反応をSNSで拡散し
6つの法則その5、しみじみ、結果としてこの対談風プレスリリースは数日間に渡ってPRTIMESのランキングを独占し、こんなパブリシティも獲得した。

藤原ヒロシ先生のホテルに関する対談が噛み合ってなさすぎて冷や汗が出るレベル

田中 ホテルのエントランスなのにスタンディングで串焼きを食べることができ、インバウンドの方などにシブヤカルチャーを感じてほしいと思っているのです。なぜ串焼きなのかというと、実は新橋と渋谷に串焼きの起源があるらしいのです。戦後の闇市ですね。 - 藤原 串焼きってどんな料理? - 田中 串に刺して食べる肉です。焼き鳥屋さんなどで出している、あのスタイルのことですね。 - 藤原 ...


これによってどんなパーセプションの変化があったか(消費者の印象を変えたか)、態度変容を起こしたか(結果、消費者の行動は変わったか)は正確には把握できないが、確実に「TRUNK(HOTEL)」の親しみやすさは増した。増していいのかはわからないが、とりあえず増した。


なんなら泊まりにいきたいとすら思ってしまった藤原ヒロシ氏のフォロワーは相当数いるのではないか。

はたしてTRUNK(HOTEL) x 藤原ヒロシは「戦略PR」なのか? 狙ってやってたのか? 機会があれば今度本田さんと論じてみたい(ポッドキャストとかで!)

というわけでこちらの本は
とてもおすすめの良書でした。

戦略PR 社会を動かす新しい6つのルール
本田哲也
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-04-12



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「今度こそ絶対行くべき四谷の超オススメお手頃フレンチを紹介するぞ」
 


この話題はポッドキャストでも深掘りしていくよ。

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