朽木誠一郎さんという医療記者の書いた『健康を食い物にするメディアたち』という本が大変おもしろかった。

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健康という永遠のテーマについて、現状いかにメディアで情報を得るのが難しいか、そしてそれはナゼなのか、今後どうすればいいのかがきっちり書いてある。

そしてところどころに差し込まれる具体的なエピソードを読むと、いままでの自分の行動が本当にバカらしく思えてくる。

例えば最近通い始めたスポーツジム。運動の前になんとなく「VAAM」を飲んでいた。パッケージに「運動で、体脂肪を燃やす」とあるので、よくわからないけど何らかの効果があるのかなと思ってたけども…。

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でもこれが全然意味ないらしい。製造元の明治はスズメバチの幼虫が分泌する栄養液が効くということを謳っているが根拠はない。同社が行った実験は以下のようなものだった。

「哺乳類に有効かどうかを調べるために、食品のアミノ酸を幼虫の栄養液の配合バランスに近づけてマウス投与し、遊泳実験をおこないました。この実験の結果から、『運動の持久力が向上する』などの有効なデータが得られました」(VAAM商品サイトより)

調べてみると所詮マウスでした、と。人間で効果を実証したわけじゃなかったのか…。

朽木さんの本にはこう書いてあった。


私も最近、趣味のスポーツの最中に、自分が騙されていることに気がついてしまいました。学生時代から10年以上、運動するときになんとなく選んで飲んでいる「体脂肪を燃焼させる」と謳うスポーツドリンク。「これって根拠があるのだろうか?とふと疑問に思ったのがきっかけです。調べてみると、なんとそれは、マウスに対して効果があったというデータしかなく、人に対しての効果が証明されたものではありませんでした。


というわけで、こりゃ無駄だわと飲むのをやめました。高橋尚子が広告塔になってるからついつい信じちゃうんだけどやっぱり自分で調べないとダメですね(本にはVAAMと書いてないですが)。

まあVAAMを飲むくらいなら「お金がもったいなかったよね」で済む話だが、これが病気とか薬とかに絡んでくると全然笑えない。

我々はメディアや広告に氾濫する深刻なまでにデタラメな医療情報、健康情報とどう向き合えばいいのか、その基本となる姿勢を朽木さんの本は教えてくれる。


「健康食品に病気を治したり、防いだりする効果はありません」

彼自身は医学部卒業後ウェブメディアの編集長を経て医療記者となった人ということなので、豊富な知識と実地の取材で得た情報に裏付けされた内容には目からウロコの連続だった。



大事なことなので、はっきりさせておきます。健康食品に病気を治したり、防いだりする効果はありません。ネーミングから「なんとなく健康に良さそう」と思ってしまいそうになりますが、このイメージは誤り。




例えば、新型たばこと呼ばれる「アイコス」や「プルーム・テック」には、「受動喫煙はない」といわれることがありますが、これは誤りです。



ぼくはわりと素直な人間なので、健康食品は多少なりとも健康になるんだろうと思ってたし、アイコスは煙出てないし、体に悪くないんでしょ?って思ってた。要はそういうイメージをメディアなり広告なりを使って企業は醸成していて、一般人はそれを信じ込んじゃう。

ちなみにアイコスの受動喫煙について正確に表現しようとするとこうなると朽木さんは言う。

「新型たばこから有害な物質が出ていることを明らかにする複数の研究結果があり、有害であることはほぼ確実だと信頼できる専門家は説明するが、受動喫煙の健康被害を立証するためには長期の研究が必要で、販売されてまだ数年の新型たばこについてはそれがなされていない」

健康・医療情報がいかにスパッと言い切れない難しい問題なのかが、この書き方からもわかる。


大事なのは「ネット時代の医療情報との付き合い方」

本を読んで知ったけど、悪名高いWELQのほかにもしょうもない医療情報はたくさんあるという。むしろWELQ以後のほうがよっぽどひどいとか。ヘルスケア大学なんて「5155人の医師が参画する」って書いてあったら信じちゃうなぁ……普通は。

そうなるとつくづく心配なのは自分の親の世代。彼らはそもそもネットの情報サイトの良し悪しを判断するのが不得意だし、さらに雑誌とか本になるとなんでも一緒くたに信じてしまうという弱点がある。

本に載ってることは正しい、みたいな思い込みがあったりする。でもこの出版不況のなか、経済合理性が働くのなら平気でデタラメな内容の健康本を出版する会社もあるのだそうだ。

実際にそういう本を書いてきたライターに取材したエピソードが朽木さんの本には載っていて、それを読むと本気で心配になってくる。うちの親や祖父母とかは新聞広告に載ってるような本は無条件で信じちゃうタイプの人間だから。

朽木さんも怒ってた。


仮に『健康になりたければ野菜を食べなさい』というタイトルの本があったとして、読みたいと思うでしょうか。思いませんよね。ダイエット同様、誰だって知っていることには興味を持とうとしないのです。では、もしこれが『健康になりたければ野菜を食べるな』だったら、どうでしょう。「おや」と、その意外性、野菜を食べなくてもいいというラクさに興味を引かれた方もいるはずです。だからそのような本が作られます。




少なくとも書籍というのは、長らく知の宝庫であったはずです。私は2018年2月現在30代前半の、紙の本を読んで育った世代です。だからこそ、『野菜に殺されないための50の心得』のようないわゆる健康本を見るたびに、憤りを感じざるを得ません。



これは本当に同感である。ネットはともかく、書籍がめちゃくちゃな内容だと本当に悲しい。

朽木さんの本のタイトルは正確には『健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方』である。

「健康を食い物にするメディアたち」についてその恐ろしい実態を知らされて絶望するのが前半部分なら、後半では「ネット時代の医療情報との付き合い方」という希望が与えられる。

後半こそ大事なんだと思った。

そのなかで健康に関する情報を判断する基準となる「5W2H」というチェックリストが紹介されている。「これをチェックすることで、目の前のグレーがシロに近いのか、クロに近いのかという濃淡が見えてくる」という。

この5W2Hが非常におもしろい。言われてみれば確かに、と思った。リテラシーの基本である。

例えば禁止ワード。


例えば、ダイエットのときの「すぐに」「ラクに」「だけで」など、簡単に健康になれるように謳うもの。こういったものが禁止ワードとなります。




やたらと「最新」「先端」などと謳い、本来は速やかにクリアするべき臨床試験を実施していない治療というのは、怪しいのです。「最新」「先端」も、あえて禁止ワードに含めたいと、私は思います。




最後の禁止ワードは「奇跡」「生還」などの大仰な言葉や、「聡明」「若々しさ」などの抽象的な言葉、「高配合」「高濃度」「ポリフェノール」「オメガ脂肪酸」などの科学を装った言葉です。多岐にわたるようですが、これらの言葉には、実はある共通点があります。それが「法律リスク回避」を狙った言葉であるということです。



このあたりの言葉を覚えておくだけでも情報への接し方が変わってくるはず。


これは帰省したとき親に渡すべき本

なぜゴールデンウィークにこの本について書いたかというと、これは2冊買って、1冊は親に渡す価値のある本だと思ったから。

GWの前半に実家に帰ったとき、親には「くれぐれもネット検索で出てきた情報を鵜呑みにしてはいけないし、もっと言えばテレビも新聞も雑誌も本も疑うように……」と話して、この本を置いてきた。

体調が悪いなとネットで調べようと思うときがあったら、その前にまずこれを読むようにと。それかさっさと医者に診てもらうべき。

ネットだろうが、紙だろうが、耳障りの良い情報ほど流通しやすいのが現状だ。だからこういうガイドが必要になってくる。

◆◆◆

ところでネットやマスメディアを見ていて、いかにも怪しそうな健康・医療情報を見つけたらどうすればいいか。本ではこう結んでいる。


#metoo では「パワハラ」「セクハラ」「それを容認してきた社会」などの、見えにくい、かつ、大きな敵に立ち向かうために、このハッシュタグが使われました。健康・医療分野で向き合うべきは、経済合理性や、私たちの「信じたいものを信じたいように信じる」傾向です。これらの対抗するための動きを、私は「#情報のリレー」と名付けたいと思っています。

WELQ問題で、一介のライターであった私の上げた声を、バズフィード・ジャパンが拾い上げ、追及し、既存マスメディアが報道し、政治家・行政が動いて、大手企業が謝罪会見を開くまでになったように。WELQ後に、私が地道に続けたネットの医療情報の報道を、読者の皆さんがネットを中心に支援し、大きくなった声がグーグルやヤフーに届いたように。情報をリレーし、相互監視をスムーズにおこなえるようにするのです。

方法は簡単で、声をあげなければと思ったときに「#情報のリレー」というハッシュタグとともに投稿してください。私がまず、このバトンを受け取ります。


ハッシュタグで情報をつなごう。

とりあえず
#情報のリレー」というハッシュタグをつけてツイートすると朽木さんがなんとかしてくれるらしいよ!


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「誰でも一瞬でラクにダイエットできる最先端の方法おしえます」 


この話題はポッドキャストでも深掘りしていくよ。

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