はあちゅうさんのデビュー小説を読んだ。いま発売中の文芸誌「群像」に掲載されている。



まわりを見回してみると、ぼくの友人の半分くらいは何かしらの本を出していて、9割くらいの人は頼まれもしないのに日常的に文章を書いては世の中に晒しまくっている。

なかなか偏っているなと思うけど、それでも小説を書いて発表した人は、はあちゅうさんくらいか。

いや、いちるさんがいた。いちるさんは子どもの頃に書いた小説を大人になってからリメイクし、Kindleで出版するという豪の者。ちなみにタイトルは『我が名は魔性』。
 
我が名は魔性
清田いちる
ピヨピヨブックス
2013-04-30



で、はあちゅうさんの小説だが、とてもおもしろかった。
すごく良かった。

今回群像に載ったのは3本の短編集。人と人の出会いやすれ違いを独特の不思議さで描いている。


「世界が終わる前に」
大学三年の一年間、モラトリアムに逃げこむような形で香港大学に留学したサホは、マイケルというABC(アメリカン・ボーン・チャイニーズ)と出会う。冴えない自分と、人気者の彼。付き合っているようで、本当のところはわからない。やがてマイケルは、奇妙な「秘密」を漏らすようになって……。
 

「サンディエゴの38度線」
東京に留学していたアメリカ人のイーサンと恋に落ちた私は、大学生活最後の夏休みをサンディエゴの彼のアパートで過ごすことに。イーサンの親友だという韓国系アメリカ人のアレックスともルームシェアすることになった私だが、彼とはなかなか距離が縮まらない。その内、親友だったはずの二人の関係に亀裂が生じ始めて……。
 

「六本木のネバーランド」
「美幸ちゃん、僕の家に住まない?」――合コンで出会った外資銀行に勤める森さんから、彼がニューヨーク滞在中の二ヵ月間、家の留守番を頼まれた美幸。秘密基地を手に入れて大喜びの美幸のもとに、森さんから週に一度届くメール。ラインともメッセージとも違う、海を超えたパソコンのメールでのやり取りが、不思議な感覚をもたらして……。



掲載ページの順番から、「世界が終わる前に」を最初に読んだ。出だしのところで「おっ、いいかも」と予感させるものだった。最初の数行はなんというか、「立派に小説家している。すげえ」みたいな謎視点で読んでいたけど、すぐに話に引き込まれていった。

特に気に入ったのは3本目の「六本木のネバーランド」。社会人も大変だよねえという小学生並みの感想を持つとともに、わかるようでわからない謎めいた森さんの心の奥底に流れるものは何だろうと強く興味を惹かれた。

そして、これら一連の短編は、これから始まる1つの壮大な物語の序章に過ぎないんじゃないかと思わせるような奥行きがある。だから、森さんがああなったのはきっとアメリカ滞在中に、別の短編に登場してたマイケルやアレックスと何かあったに違いない。

などと、いろいろ妄想が膨らむ良短編だった。どの作品からも、作家・はあちゅうとしての文体と、通底する空気感のようなものが感じられた。それは作家としてとても大事なことだと思う。

小説は久しぶりに読んだ。短編小説っていいですね。僕は村上春樹も短編のほうが好きだし(一番好きなのは『パン屋再襲撃』。出だしが最高)、原田宗典も、ポール・オースターもそう。又吉直樹だって、『火花』よりも、短編集の『東京百景』のほうがおもしろいと思う。

東京百景 (ヨシモトブックス)
又吉 直樹
ワニブックス
2013-08-26



ところで今回、文芸誌なんて買ったのはじつは初めて。はあちゅうさんを起用したことで、2月号の群像はきっと普段と違う層の人たちに届いてるんじゃないだろうか。だとしたらそれはとてもいいことだ。




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「ぼくの好きな小説、ベスト10を紹介します」
 


この話題はポッドキャストでも深掘りしていくよ。

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